ヴァンパイア夜曲
くらり、とめまいがした。
震える足を、なんとか前へと進める。
(…この城のどこかに、シドがいる…)
その想いだけを支えに走り続けた。
せめて、彼だけは助けなければ。
二度とこの場所で大切な人を殺させはしない。
記憶の底に押し込めた記憶がその蓋をガンガン叩いているようだ。城の景色を見た瞬間。昨日のことのように蘇って来る。
その時。ふと、廊下の奥から音がした気がした。
敏感な鼻で感じるわずかな血の匂い。
ぞくりと体が震える。
嫌な胸騒ぎとともに駆け出した。速度を上げて、悪魔に導かれるように血の跡を追う。
お願い。
お願いだから、無事でいて。
「シド!!」
廊下から奥へと繋がっていた扉。
勢いよく押し開ける。
そして私は絶句した。
そこにシドはいなかった。
血のように赤く光る瞳でこちらを睨んだのは、鋭い牙を剥いて自我を失ったヴァンパイア。
(スティグマ!?)
逃げる暇もなかった。
躊躇なく襲いかかるスティグマの牙。
私は、自ら彼らの巣窟の扉を開いてしまったのだ。