ヴァンパイア夜曲

くらり、とめまいがした。

震える足を、なんとか前へと進める。


(…この城のどこかに、シドがいる…)


その想いだけを支えに走り続けた。

せめて、彼だけは助けなければ。

二度とこの場所で大切な人を殺させはしない。

記憶の底に押し込めた記憶がその蓋をガンガン叩いているようだ。城の景色を見た瞬間。昨日のことのように蘇って来る。


その時。ふと、廊下の奥から音がした気がした。

敏感な鼻で感じるわずかな血の匂い。


ぞくりと体が震える。


嫌な胸騒ぎとともに駆け出した。速度を上げて、悪魔に導かれるように血の跡を追う。

お願い。

お願いだから、無事でいて。


「シド!!」


廊下から奥へと繋がっていた扉。

勢いよく押し開ける。


そして私は絶句した。

そこにシドはいなかった。

血のように赤く光る瞳でこちらを睨んだのは、鋭い牙を剥いて自我を失ったヴァンパイア。


(スティグマ!?)


逃げる暇もなかった。

躊躇なく襲いかかるスティグマの牙。

私は、自ら彼らの巣窟の扉を開いてしまったのだ。


< 29 / 257 >

この作品をシェア

pagetop