ヴァンパイア夜曲
全てを察したような彼に、私は会話すらできなかった。
私の体を支えるシドは静かに語り出す。
「ここに来る前、俺は城内を見回っていた。広間や玉座、全ては過去の情報の通りで、ヴァンパイアの王族がこの地で絶命したのは明らかだった」
だが、と彼は続ける。
「十年前にこの城に調査団が来た時の記録に不可解な点があったんだ。“王子と姫の遺体だけはどこを探しても見つからなかった”と。…だから俺は真実を探してここへ来た。本部からの命を受けてな」
澄んだ碧眼が私を見つめられ、もう隠す術もなかった。
シドの声が廃れた城に響き渡る。
「レイシア。お前が、この城の姫なんだろ」
全ての始まりは私が七歳の時。
平和だった城が襲撃を受けて家臣が皆スティグマとなり、父と母は一夜にして姿を変えた仲間たちの標的となった。
兄は私を連れ、深い夜の闇に包まれる森へと逃げ込んだ。父と母はそんな私たちを庇うためにわざと城に残ったのだ。
こうして、マーゴットの修道院に転がり込んだ十年前。
聖なる力の加護を受ける修道院は、吸血欲という本能に溺れるヴァンパイアが立ち入れない聖域となっていた。
そのため、マーゴットは私よりも六つ歳上で吸血欲が目覚めていた兄にロザリオを授け、人間として聖なる修道院で暮らせるように配慮したのだ。
しかしその三日後。兄はまだ覚醒前の幼い私にロザリオを預け、何も言わずに私の前から消えてしまい消息不明。
これが私の生い立ちだ。