ヴァンパイア夜曲
ギロリとシドを睨んだ瞬間。シドはわずかにまつ毛を伏せて足を止めた。
「シド?どうしたの?」
急に立ち止まった彼を眉を寄せて見上げると、シドはちらり、と背後へ視線を向けて低く呟く。
「…足音、するよな」
本当にこの男は。
私をからかうのがそんなに楽しいか。
「もう、またそんなこと言って…!次は騙されないんだから」
おどけて言ったつもりだったが、シドの顔つきは先ほどまでと全く違う。
そう、それは
凶暴化したヴァンパイアを始末するグリムリーパーの瞳だった。
真後ろで水の弾ける音がした。
ぞくりとした瞬間、水路の表面に映し出されたのは獲物をとらえたかのような赤い瞳。
「走れ!!」
合図と共にシドに、ぐん!と引っ張られる腕。
とっさに駆け出すと、先ほどまでいた場所に水路の天井から自我を失ったスティグマがドサドサと落ちてくる。
震える体。
素早く拳銃を胸元から取り出したシドは、背後に向かって引き金を引いた。
パァン、パァン!!
乾いた銃声が地下水路に響き渡る。
血の色に染まる水路が弾丸が標的を仕留めたことを告げていた。