ヴァンパイア夜曲
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「さ。ここまで来れば、君たちのゴールは目の前だ」
トンネルを抜けて街の灯りが見え始めた頃、ランディが東を指差してそう言った。
彼の話では、路地の先にある角を曲がればすぐ宿屋に辿り着けるらしい。
「ありがとう…!本当に助かったわ」
「いえいえ。女の子が困っていたら声をかけるのが僕の流儀だからね」
談笑する私たちの横でなぜかムスッとしたシドは、碧眼を細めてこちらを見つめている。
旅の疲れがマックスに達しているのだろうか。
その時、ランディがさらりと私に続ける。
「ねぇ、お嬢さん。出会いの記念に名前を聞いてもいいかな?」
流れるように口に出されたセリフ。この人はいつもこのように女性を口説いているのだろうか。
「レイシアよ。こっちは、旅仲間のシド」
ついでのようにシドの名前も伝えると、くすりと笑ったランディは私たちを見つめて呟いた。
「ありがとう。覚えておくよ。…また、縁があって会うことがあるかもしれないからね」
出会った時のようにフードを被ったランディは、翠の瞳を覗かせてこちらを一瞥した後、ふわりと闇夜に消えていく。
(…なんだか、不思議な人…)
一瞬地下水路で彼が私の頰に触れた指は、驚くほど冷たかった。
スティグマを仕留める時の脚力も、並大抵の人間の力を超えている。
「ねぇ、シド。もしかしてあの人、グリムリーパーの同業者だったりしない?」
ある予感を胸にそう尋ねてみたが、相変わらず無愛想なシドは「知るか」の一言で私の問いを雑にあしらったのであった。