ヴァンパイア夜曲
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「ここか」
翌日。
早くに宿を出た私たちの前にそびえ立っていたのは、豪邸へと続く道を阻む黒い門だった。
昨夜、無事に宿屋に辿り着いた私とシドは、すぐに別々の部屋を借りて眠りについたのだ。
ちなみに、宿屋の主人に勘違いされてツインやダブルベッドの部屋を勧められたことは暗黙の了解でお互い口に出さないことにしている。
そして今朝。
昨日街で出会った男性から聞いた、街を統括している“ベイリーン家”を尋ねることがヴァンパイアの情報を得る上で一番効率が良いという話になり、豪邸へとやって来たのだ。
柵の隙間から見える敷地に人の気配はない。どうやら門番のような守衛はいないらしい。
それにしても、いかにもお金持ちといった感じのお屋敷だ。不用意に近づけば防犯装置が作動してもおかしくないだろう。
私がごくりと喉を鳴らして威圧感のあるお屋敷を見上げていると、隣から聞き慣れない金属音が聞こえてきた。
嫌な予感とともに視線をやると、何食わぬ顔をしたシドが門の鍵を引っ張っている。
「ちょっと!何さらっと入ろうとしてるの!?勝手に入ったら怒られるよ!警備員に囲まれちゃう…!」
「その時は強行突破すりゃあいいだろ」
(まったく、この不良は…!)
警戒する私をよそに、ガシャンと取っ手を引くシド。意外にもすんなり門は開いた。
壊したのではないだろうなと冷や汗をかく私をよそに、シドはスタスタと敷地内へと入って行く。幸いにも防犯ブザーは鳴らなかった。