ヴァンパイア夜曲
一歩足を踏み入れると、そこはよく手入れの行き届いた庭だった。穏やかな日差しが降り注ぐ玄関に辿り着くと、視界に映ったのは装飾が施された小さなベルである。
シドが屋敷を見上げて呟いた。
「鳴らせば誰かしら出てくるシステムらしいな。さすがにここの鍵は開いてねえだろ」
「待って、私がやるわ。玄関を開けた先にシドがいたら、変な勧誘だと思われかねないもん…!」
「俺のどこが悪徳業者だと…?」
玄関まで壊されたらたまらない。
私は無意識に高圧的なオーラを放つシドを押しのけ、屋敷のベルへと手を伸ばした。
やがて、リンゴーン…!と音が響き静まり返る玄関。返答のない屋敷にシドが眉を寄せたその時、コツコツと足音が近づいてくる。
重々しい扉が開き、その先に見えたのは若い青年。
私と同い年か少し若いくらいに見える彼は、きっちりとしたベストスーツに高級そうなレースでできたジャボをつけていた。
精巧に作られたお人形のように眉目秀麗な彼に息がとまる。
『…たしか、奥様は早くに亡くなったらしいがあそこには跡取りの優秀な息子がいるんだよ』
昨夜の男性の声が蘇る。
どうやら、目の前の彼が大富豪の息子らしい。
そして私がお辞儀をして挨拶を交わそうとした、次の瞬間だった。
「……はぁ。ランディめ、またトラブルを起こしやがって……」