ヴァンパイア夜曲
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広い応接室に、時計の音が響く。
アンティークのような調度品が並び、天井にはシャンデリア。いかにもお屋敷といった感じだ。
明らかに高そうなソファに腰掛ける私とシドの目の前には、アルジーンとその父親、ゴードルフが並んでいる。
屋敷のメイドが紅茶を出してくれたが、異様な緊張感のせいで口をつける余裕がない。
「つまり、スティグマに襲われたところをランディに助けられたと?」
「はい。彼が加勢してくれたんです」
昨夜の出来事を話すと、アルジーンは顔をしかめて呟いた。
「へぇ。あいつも、たまには慈善活動をすることがあるのだな。…まぁ、そもそもこの家の人間が深夜に出歩くのは許し難いが…」
アルジーンの言葉に、私は部屋を見渡して尋ねる。
「ここには使用人の方がたくさんいらっしゃるようですが…、皆ここに住んでいるのですか?」
「いや。使用人は定時になると家に帰る。ここに住んでいるのは私たちとランディだけだ」
低く答えたのはゴードルフだ。
この屋敷の主人は従業員を大切にするホワイト社長らしい。
「では、三人家族なんですね」
…と。私が口にした瞬間だった。
バン!とテーブルに手をついて勢いよく立ち上がるアルジーン。
その表情は怒りに満ちている。
「俺たちとランディを一緒にするな!生粋の人間であるあいつが、純血であるベイリーン家の一員な訳ないだろう!」
「え…!」
ランディが人間?
てっきりこの屋敷に住んでいるのなら、皆ヴァンパイアの家族なんだと思っていた。