ヴァンパイア夜曲
それだけを言い残して部屋を出たゴードルフに、部屋の中が静まり返った。
何かを考え込んでいるような表情を浮かべるランディを見上げていると、席を立ったアルジーンが眉を寄せる。
「…いつもこうだ。父上は甘すぎる。家の品格を損なうようなトラブルばかり起こすお前にお叱りの一つもないなんて」
ランディを睨むアルジーンの目は、まるで軽蔑を通り越したような冷たい瞳だった。
「お前なんて、執事として家に置いてやっているものの、父上が拾った孤児でなければ今すぐ俺が追い出してやったのに…!!」
しぃん、と静まりかえる応接室。
シドまでも気を使うようにランディを見つめている。
ランディは何も言わなかった。
反論しないと見るや否や、アルジーンはフンと踵を返して部屋を出て行く。
「今夜は父上の大事な商談があるんだ。また何か父上の威厳を損なうような面倒ごとを引き起こしたら、本当に追い出してやるからな!」
バタン!
冷たく言い放った言葉は冗談には聞こえなかった。歳が近い彼らだが、どうやら他人が踏み込んでもどうにもならないほどの確執があるらしい。
ランディは去って行くアルジーンの背中を悲しげに見つめているように見えた。