ヴァンパイア夜曲
「…はは。ごめん。見苦しいところを見せたね」
こちらを向いて苦笑するランディは、小さく息を吐いて私たちの対面のソファに腰掛けた。
「俺は問題児扱いされているからさ。あぁ言われるのも当然なんだ」
「私は、貴方がそんな悪い人には思えないわ。…その…喧嘩とか、酒場でのトラブルとか…起こすような人だなんて…」
言葉を濁しつつそう呟くと、ランディは静かに答える。
「まーね、その多くはとばっちりなんだ。市街でスられた人の荷物を取り返そうと相手とやり合ったり、酒場でタチの悪い酔っ払いを店から追い出したりしただけさ」
「それ、アルジーンには言わないの…?」
「言ってもどうせ信じてもらえないよ。僕はこの家での立場が悪いんだ。他の使用人達からもね。…味方をしてくれるのは旦那様だけ」
諦観したような瞳。綺麗な翠の目が弱々しく揺れている。
すると、私たちの心境を察したように、ランディは、へらりと笑って続けた。
「あー、ごめん。暗くならないで。女性関係のトラブルは本当に僕が起こしていることだから、言い返せなくて当たり前なんだ」
「……気ぃ使って損した」
ぼそりと呟いたシドは、気が抜けたように足を組んでソファの背もたれに体を預けた。
ランディは、膝に頬杖をついて続ける。
「聞いたかもしれないけど、僕は元々孤児でね。母親がかつてこの屋敷の使用人だったって縁で旦那様が引き取ってくれたんだ。…だから、この家に住んでるって言っても僕は家族でもなんでもないわけ」