ヴァンパイア夜曲

彼がベイリーン家で世話になっているのは旦那様の厚意があったかららしい。

しかし、母親が屋敷の使用人だったというだけで孤児を引き取るだなんて、旦那様は相当寛大な人のようだ。


「お前、あのアルジーンって奴にすげー嫌われてるんだな」


「あはは!わかる?でも可愛いだろ?旦那様からの愛情を取られたと思ってキャンキャン嫉妬してる子犬みたいで」


シドの言葉にそう言って笑ったランディ。

どうやら、本人はあまり気にしていないらしい。冷たくされるのが日常的すぎて感覚が麻痺しているのだろうか。

あの殺気すら感じるほどの態度を“可愛い”と受け止められる心の広さが羨ましい。


「…奥様が亡くなるまでは、仲良かったはずなんだけどなー…」


そう低く聞こえたぼやきも、きっとアルジーンに反論しなかった理由の一つなのだろう。

その時、ランディが私たちの方を見てわずかに首を傾げた。


「…で?君たちはどうしてここに?本当は、僕に会いに来たわけじゃないんでしょ?」


見透かしたような瞳。

アルジーン達の前では話を合わせてくれたようだが、彼は気づいていたらしい。

隣を見上げると、シドは真剣な瞳で口を開いた。


「お前は、この街でスティグマの事件が多発していることを知っているよな?」


ランディの顔つきが変わる。

それは肯定の表情だ。


「俺たちは、ヴァンパイアをスティグマに変える事が出来る男…薔薇の廃城の犯人の情報を調べるためにこの街に来たんだ」

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