365日のラブストーリー
 手元にあった空のグラスはいつの間にか下げられて、細やかな泡が立つ代わりのビールが置かれている。それに気付くと、真っ白になってしまっていた頭の中に、神長の声が割り入ってきた。

「綿貫さん?」
「あっ、はい。すみません。神長さんみたいな優しい人を振るなんて、信じられないって思って、いろいろ考えてしまって」

「俺はいつも振られてばっかりですよ」
「うそでしょう、そんなの」

 大丈夫だ、これまでと同じように笑って話ができる。有紗はビールを流し込んだ。
 気持ちの確認はもう出来た。好きな人に振られてしまったらしいが、彼の気持ちはまだそこにある。さっき神長がしてきた質問は、彼自身のことだったのだ。

 ときどき向けてくれる優しい顔。もしかしたら神長の目は自分を通り越して、別の人を見ていたのではないだろうか。千晃とデートをしている最中に、神長のことばかりを考えていた自分と同じように。
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