365日のラブストーリー
「そこには何もありませんよ」
 そう言われてもう一度振り返る。

「え、なんですか気になります」
「何でもないです。行きましょうか」
 なぜだかわからないが、神長は少し楽しそうだ。

 店内に入ろうとした時に手の甲が触れ合った。有紗は軽く頭を下げて、その手をストールの中に引っ込める。想いを聞いてしまったあとでは、彼の手に触れることはできなかった。

 テーブルに戻ると、テンションの上がりきった宇美に迎え入れられた。有紗に対してまで英語で何かをまくし立てていて、さっぱり聞き取れない。

 神長があれからずっと同席している男性たちから事情を聴くと、ビールで腹が膨れるまえにここを引き上げて、これから渋谷のバーに行くことになったのだという。

予定外のはしご酒になりそうだ。有紗は伺いの視線を神長に送る。脱力した表情で了承し、神長は店員を呼んだ。会計だ。有紗は鞄の中から財布を引っ張り出した。
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