365日のラブストーリー
『すぐに決めなくても大丈夫です。もし気が向いたら連絡をください』

 顔すら見ていないというのに、考えていることがわかってしまうのだろうか。有紗はさんざん悩んでから、『わかりました』とだけ返信した。

(とりあえず、歯を磨いてシャワーを浴びて……、一回心をからっぽにしよう)
 有紗はベッドから立ち上がった。



 新宿の伊勢丹に着いたのは午後六時過ぎだった。人でごった返した総菜売り場を苦労して通り抜け、洋菓子売り場についたものの、どの店のショーケースの前にも人垣が出来ている。

 有紗は背伸びして人と人の間から、手土産用のケーキを探していた。

 これからお詫びのケーキを持っていきます、とメッセージを送っても「わざわざ来なくていい」と言われそうで、千晃にはまだ何も伝えていなかった。けれどまずは、人として筋を通すことが重要だ。

 ようやく買うものを決めて購入者の列に並んでも、自分の番になるとお目当てが売り切れてしまう。

そんな不運に二度見舞われても、美味しいものをあげるというこだわりに妥協をするわけにはいかなかった。贈りものは、自分の申し訳ないと思う気持ちを代弁するものでなくてはいけないからだ。
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