365日のラブストーリー
「今も全部ちゃんとは理解できていないかもしれないけど。神長さんはそういう風に考える人だって、坂巻さんに上手く伝えられたらなって思ってたんです。でも、わたしなんかが言わなくても、やっぱりちゃんと坂巻さんはわかってるんですね」

 何かを考えているのか、坂巻の目はどこか遠い。

 用件が済んだ以上、これ以上坂巻を縛り付けてはいけない。せめておいしく食事をいただこうと、気持ちを割り切って刺身に箸をつける。きれいに食べきってから、有紗は伝票を取った。

「今日はお時間とっていただいてありがとうございました。わたしは先に戻りますので、ゆっくりしていってください」

「あのさ綿貫さん」
 そこまで言って、坂巻は腕時計に目をやった。

「さっき言ってた、神長くんが綿貫さんにしたっていう『恋人とか友人とか、そういうのに縛られずに』っていう話。それ、できるだけ詳しく教えてほしいんだけど」



 うまく伝えられただろうか。エレベーターで坂巻と別れてから、有紗はそっと息を抜いた。
(結局わたし、言わなくてもいいようなことまで言ってしまったような)
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