365日のラブストーリー
 不思議に思いながら神長の顔を見ると、彼もまた落ち着いた表情だ。仕事で色々な人と駆け引きをしてきた経験があるから、これくらいでは動じないのだろうか。

「何か手伝いましょうか?」神長が席を立った。
「あらっ、悪いわね。……でも、廉さんが側にいるとどきどきして手を切ってしまいそうだから、有紗とそこでゆっくりしててね」

 それにしてもさっきの話、ほんとうに面白かったわよねえ、と思い返すようにつぶやきながら、母はエプロンをかけた。去年の誕生日に有紗が贈った小花柄のものだ。

 有紗は神長と自分の分の紅茶を入れ直して、落ちつかないまま父が戻るのを待った。

 父は普段から言葉少なで、器用な人ではないけれど、穏やかで相手の気持ちを大切にする人だ。それなのに、恋人ができたということが、その父を別人のようにさせてしまったことが悲しかった。

「廉さん、ごめんなさい。せっかく一緒に来てくれたのに、父が失礼なことばかり言って。お金のこととか、容姿のこととか」
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