365日のラブストーリー
「有紗はうまく自分を出せなくて、すぐに笑顔で取り繕ってしまうところがあるでしょう」

 母の言い分に、有紗は言葉を詰まらせた。たしかにそういうところもある。過去に人間関係で苦しんだのは、自分の気持ちをうまく伝えられないまま、大丈夫、と全部を笑ってやり過ごそうとしてしまったからだ。でも、神長との関係はそうじゃない。

 有紗はキッチンの母に、訴えかけるような目線を送る。母は笑みをこぼした。
 リビングに、包丁がまな板を打つ心地の良い音が聞えてきた。

「有紗が廉さんに対してどこまで本当の自分を見せているのかを、確かめたかったんだけど……。そんな必要もなかったかもしれないわね。隠そうとしたって、廉さんはすぐに何でも見抜いてしまうものね。初対面なのに、お父さんのことまで」

 有紗は驚いて神長に目を向ける。

「不自然さにはすぐに気がつきました。有紗さんは会話の中でよくご両親の話をされます。ごく自然に。その内容や、彼女の価値観を考慮すれば、だいたいどんな人柄かわかるものですが、それとかけ離れていましたし」
< 469 / 489 >

この作品をシェア

pagetop