365日のラブストーリー
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 千晃の住むマンションは、山手線のすぐ外側の住宅街にある。公立の教育モデル校もある場所で、都心部ながら子育てのしやすい街として人気のエリアだ。

 できるだけ良い環境教育を、と考えた結果その場所になったらしい。実際に降り立ってみると駅前ロータリーが木々と花に彩られた、穏やかな雰囲気の街だった。

駅の壁に貼られたパネルからは、戦後の土地開発で造られた屋敷町の町並みを残そうそうと保護活動がされていることが窺える。

(良いところだなあ)
 有紗は素直にそう思った。今一人暮らししているのは便利さを追求した商業ビルだらけの街だ。昔はいくつも商店街があったという話は聞くが、面影はない。

 スマートフォンを片手に、地図を見ながら歩いていく。心暖の話によく出てくるステラ保育園を通り越すと、スーパーマーケットが見えてきた。

駅から家に帰るまでの動線上に必要なものがそろっている場所を選ぶあたり、さすがだ。
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