365日のラブストーリー
 ダイニングテーブルでいくつかのサイドディッシュを用意している千晃は、レンジ、グリル、オーブンと、様々な機材を使って一気に準備を進めている。

料理中も子どもから目を離せないといっていたから、効率よく準備をすることが身体に染みついているのかもしれない。

「夜ご飯みたいに豪華になっちゃいそうですね」
「もはや二人分じゃねえし。それにしても、家で誰かに食事を用意してもらうのも久しぶりだな」

「わたしもですよ? ……あ、ここは自分の家じゃないですけど。でもやっぱり誰かのために用意するご飯って、ただの作業じゃないかんじで嬉しい」

 会話が止まったのが気になって振り返ってみると、千晃から見つめられていたことに気がついた。有紗はすぐにフライパンに向き直り、意味もなくソースをかき混ぜた。

「後ろ姿見てると、抱きしめたくなるね」

 単なる冗談なのだろう、千晃は普段と全く変わらない淡々とした口調だ。それなのに唐辛子をかじったみたいに、額から汗が噴き出してくる。
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