365日のラブストーリー
 視線から逃れれば、身体に触れられるかもしれない。どうしたらいいのかわからずにいると、千晃が背中で手を組んだ。

「手が汚れてるから触れない。だからもうすこし顔あげて」

 腰をかがめて、視線を絡ませてくる。覚悟を固めた上でする二度目のキスは、いたずらに唇を触れあわせただけの一度目よりも、有紗に深く浸食してきた。



 一緒に居るほどにその人の良いところが見つかって、見つかるほどに好きになっていくはずだ。その考えも間違いではなかったかもしれない。何も共通項がないと思っていたのに、意外なところで繋がった。

 千晃は普段気軽な外出が出来ないせいか、スーパーで売られている有名店とのコラボ商品にはやけに詳しかった。たとえば、五本木交差点の側にある食パンのみを扱う有名店、一本堂監修の商品。

ずっしりとした食べ応えのあるシンプルな食パンを求めて、有紗も本家まで何度か足を運んだことはあったが、まさか気軽に行ける場所で一本堂監修の食パンが食べられるとは夢にも思っていなかった。

 千晃は身近で調達できる美味しいものをよく知っている。
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