365日のラブストーリー
「俺からすると、なぜ物語の途中でとつぜん人が踊りながら歌い出すのかわからないんだけど」
「それは――」

 言いかけたとき、千晃が指を絡めてきた。あっというまに体温が溶け合った。そこから動けないままでいると、千晃の身体が覆い被さってくる。ふたりきりのときに触れたがるのは、キスの合図なのだろうか。

「有紗ちゃん」
 甘い声で名前を呼ばれて頷いた。ついさっき何かを言いかけたというのに、どんな話をしていたのかが飛んでしまった。

 唇をぎゅっと結んで目を閉じる。キス待ちの数秒のあいだに、千晃の上半身が押しつけられた。
 背中に腕が回されて、ゆっくりとソファに押し倒される。どうしたらいいのか分からないまま硬直していると、千晃の息が首にかかった。

「……想像以上に」
「え、なにがですか」

 いつになってもキスの気配がなく、おそるおそる目を開けると、すぐそこに千晃の顔があった。伏し目がちな細い目は、首から下に向けられている。
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