365日のラブストーリー
ポケットの中にスマートフォンが入っているのかと思ったが、そうじゃない。その硬い物体はやわらかな生地越しに、一瞬で汗ばんでしまいそうなほどの熱を伝えてくる。

「がっかりでこんな風になんねーから」

 有紗はぎゅっと唇を横に引いた。勢いを増していくそれの扱いに困っていると「触って」と、千晃が甘えた声で囁いてくる。けれども、触れと言われてもどうしたらいいのか分からない。

 発熱した子どもにそうするように、そっと撫でてみる。汗ばんでいるのか、心なしかスウェットが湿り気を帯びてきた。

しばらく有紗のようすを眺めていた千晃が身体を起こした。

「服じゃまなら脱ごうか?」
「いえ、大丈夫ですっ」

「なんで」
「あの、わたし実は、今まで誰ともお付き合いしたことなくて。手順もまだぜんぜんよくわかってないんです。だからちょっと、森住さんのそれをどうしたらいいのか」

「手順って……。まじかよ、まさかファーストキスも俺?」
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