365日のラブストーリー
「大丈夫ですか?」

 一目見て分かるほど、ひどい顔をしているのだろうか。狭い空間で風邪をうつしてはいけないと、有紗は唇を結んで息を止めた。

 首を縦に振った拍子に、神長の姿がぐにゃりと歪む。胃の中からこみ上げてくるものを必死に堪えているうちに一階に着く。

扉が開いたが、有紗はそこから動けなかった。目の前は大きく回転し、有紗自身がその渦の中に飲み込まれてしまっている。
 様子を察したのか神長が手を差し伸べてきた。

(触れたらうつしてしまうかも)

 そうは思うのだが、とにかく降りなければそれも迷惑だ。有紗は神長の腕を掴んだ。エレベーターから降りて、ようやく息をつく。

「家はどのあたりですか」神長が訊いてきた。
「大田区のすみっこです。ほとんど神奈川県というかんじですけど」

「送ります、車で来ているので」
「えっ」
「これから自社に戻るのですが、たぶん通り道だと思います」
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