わたし、BL声優になりました
「英知、シャンパン入れてもいいー?」
「ああ、いいよ」
光が乱反射する店内で、黒瀬は高級感溢れる革張りのソファに踏ん反り返り、両腕にはドレスを着た美女がぴったりと彼に身を寄せている。
どう見ても、これは。
この場所は……あれですよね。
いわゆる、夜のお店ですよね?
状況を理解はしているが、ゆらぎは敢えて黒瀬に問うてみた。
「……あのー、黒瀬先輩。これはどういうことでしょうか」
「ん? 何って、キャバクラ。お祝いって言ったらキャバクラだろ? 今日は俺が奢ってやるよ」
ですよねー。
って、いや、違いますよ。
何考えてるんですか、この先輩は。
もし、週刊誌に撮られでもしたらどうするんですか。
そもそも、大人しくこの人に着いて来たのが間違いだったんだ。
……もう、帰りたい。
店内がギラギラし過ぎて眩しいし、なにより、お姉さま方の豊満な胸の谷間が嫌でも目につく。
祝ってやると言われたときから、嫌な予感しかしなかった。それが現実になってしまうとは。
お酒が苦手なゆらぎは、何かをする事もなく手持ちぶさたになり、高級フルーツの盛り合わせからマスカットを一粒取り、口に運んだ。
このまま黒瀬を放置して帰ることも考えたが、赤坂と連絡が取れない以上、やはり彼を置いて帰るのは抵抗感がある。
というより、ここに黒瀬を残して行くのは最早、不安でしかない。
「黒瀬先輩。さっき、女の人から『エイチ』って呼ばれてましたけど……偽名ですか?」
「あ? 違う違う。俺の本名」
「え……本名なんですか」
本名を簡単に明かしてしまうとは、些か無用心すぎではないだろうか。新人の私でもそれくらいの分別はつく。
赤坂さん、黒瀬先輩の教育をもう少ししっかりとした方がいいですよ。
ゆらぎはマスカットを無心で貪りながら、連絡のつかないマネージャーに胸の内で呼び掛ける。