わたし、BL声優になりました

「──つまりは、監督に気に入られたんですよ、白石くん」

 『良かったですね!』と言わんばかりの赤坂の満面の笑みに、ゆらぎは苦笑するしかなかった。
 
 突然気に入られたと言われても、『なるほど、そういう事もあるんだ』くらいの薄い感情しか出てこない。

 そもそも、監督に気に入られたという実感が湧かないのだ。

「あ、オーディションの方はどうなりました? やっぱり駄目でしたか?」

 すっかり赤坂のペースに呑まれていたが、本来の用事を思い出し、ゆらぎから話を促す。

「不良少年B役で通りました。どうしますか?」

「分かりました。受けます」

 てっきり不合格とばかり思ってたが、オーディションの方も無事に合格していたようでホッした。

 ようやく、声優として一歩を踏み出せた気がする。

 真っ白だったスケジュールボードに、収録予定日が赤坂の手によって書き足されていく。

 スタートというにはあまりにも小さな一歩かもしれない。

 それでも、嬉しさが心の底から込み上げていた。


「あ。黒瀬先輩、お疲れ様です」

 寮の廊下を歩いていると、上半身裸でタオルを首に引っ掛けた黒瀬と遭遇した。

 何度も赤坂に注意されているというのに、裸で出歩く癖は治ってはいないらしい。

 ということは、今日の仕事は終わったのだろう。

「おう、白石もお疲れ。あ、赤坂のテンションが異常に高かったんだけど、なんかあった?」

「オーディション通ったんです。多分、それでかと」

「ああ、なるほど。それでか……」

 ん? 何だろう。心なしか黒瀬先輩の機嫌が悪い気がする。

「……どうかしましたか?」

「んー」

「…………」

 黒瀬は腕を組み、仁王立ちで天井を見上げている。

 寮の廊下だからいいものの、端から見たら、ただの不審者ですよ。先輩。

「よし、俺が祝ってやるよ」

「え?」

 まさか、このパターンは……。
 あの時と同じ……。

「行くぞー!」
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