わたし、BL声優になりました
 とある作品の主要人物に抜擢されてから数日後。

 ゆらぎと黒瀬は仕事のために訪れた収録スタジオで、お互いの顔を見合わせて茫然としていた。

「相手役がお前だとは思わなかったんだが」

「いや……オレも何がなんだか分からないんですけど」

 状況を飲み込めていない二人に、赤坂は呆れた声を上げる。

「二人とも出演者覧を確認していなかったのですか?」

「見てない」

「同じく」

 何故、ゆらぎと黒瀬が同じ収録現場に居るのか。

 その理由は今回、ゆらぎが監督直々のオファーを受けた作品は、黒瀬との共演作品だったからだ。

「共演作ですよ。って、私言いませんでしたっけ?」

 赤坂はタブレット端末を操作しながら、平然とした様子で言う。

「言ってないだろ」
「聞いてませんよ」

 その言葉に反論した、ゆらぎと黒瀬の声が綺麗に重なった。

 赤坂さん、もしかしてわざと黙ってましたか?

 ゆらぎは疑心に眉根を寄せていると、隣の黒瀬はすでに台本をパラパラとめくり、役柄の確認を始めていた。

 いやいや。黒瀬先輩、順応力高過ぎませんか。
 この状況を飲み込めていないのは自分だけなのか。

 しかし、理由はどうあれ仕事を受けた以上は全うしなければならない。

 ゆらぎも黒瀬にならい、その場で台本に目を通した。

 収録を始める前に、監督のいるコントロールルームへと向かう。挨拶をするためだ。

「……その監督って、もしかして」

「ええ、白石くんを気に入ってくれた、あの監督さんですよ」

 道中の話題は黒瀬のラジオ収録現場にいた、ゆらぎのことを気に入ったという監督についてだった。

「何それ。コネか?」

 事情を知らない黒瀬は、あからさまに嫌悪感をあらわにした表情で二人を一瞥する。


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