わたし、BL声優になりました
「コネと言えばコネかもしれませんねぇ」
ああ、やっぱりコネになるんですね。
無名の新人が、こんなに早く役を得られるわけないですもんね。
潔く認めた赤坂の言葉が、ストンと胸に落ち納得した。
これはコネなのか、ずっとモヤモヤとしてしまうくらいなら、いっそ、はっきりと言ってくれた方が心も清々しい。
音響室には黒瀬を先頭に入室した。
複雑な機材の前で椅子に座っている監督に、黒瀬が先陣を切って挨拶をする。
「お疲れ様です、濵田《はまだ》監督。本日から二週間の収録期間、よろしくお願いいたします」
ゆらぎも黒瀬に続いて挨拶をした。
「白石護と申します。本日はよろしくお願いいたします」
「ああ、黒瀬くん。お疲れさま。こちらこそ今日から収録期間中、よろしくね。で、君が白石くんだね。ラジオ良かったよ。新人なのになかなか肝が据わってるねぇ」
強面《こわおもて》の濵田監督は、自身の顎髭を撫でながら微笑した。
「あ、はい」
私はラジオで何か肝が据わるような発言をしただろうか。
数日前のことなのに、すでに記憶が曖昧で思い出せない。
ゆらぎの黙考癖に気がついた赤坂が、後ろから然り気無く彼女の肩を軽く叩いた。
「黒瀬くん、緑川くんが待機してるから、今回も息ぴったりの演技をよろしくね。期待してるよ」
濵田監督から激励の言葉を受け取った後、黒瀬とゆらぎは収録室へ移動する。
赤坂は別件の仕事により、一足先にスタジオを後にした。
「緑川さんって誰ですか?」
「台本見てなかったのか? 出演者覧に書いてただろ。『緑川ウグイス』って。俺ら以外にも、もう一人共演するやつがいるんだよ」
少し苛立っている様子の黒瀬に驚き、ゆらぎは慌てて台本を開く。
確かに出演者覧には黒瀬セメル、緑川ウグイス、白石護の順で名前が記載されていた。
それにしても、『ウグイス』はどう考えても芸名に違いない。
名前からしてインパクトの強い人物だが、当然の如く、ゆらぎはその人物を知らない。
女性なのか、男性なのか。
それさえも分からないまま、ゆらぎは黒瀬の後に続いて収録室に足を踏み入れた──。