わたし、BL声優になりました
 二人がダーツバーを出る頃には、すでに終電も過ぎていた。

 タクシーに乗り込み、緑川の住まうマンションへ向かう。

「悪いんだけど、コンビニ寄って水買ってきて」

 緑川はタクシーの後部座席で、眉間にしわを寄せて、苦悶の表情を浮かべていた。

「オレがですか?」

「お前しかいないじゃん。他に誰がいるんだよ」

「分かりましたよ……」

 何故に、私が酒に酔い潰れた緑川の世話までしなければいけないのか。

 そんな不満を抱えながらも、タクシーを停めてもらい、緑川から受け取った一万円を手に、コンビニへと向かった。
 
 ミネラルウォーターと二日酔いに効きそうなドリンクを購入して戻ると、緑川は車内で眠りに落ちていた。

 人に水を買わせておきながら寝てしまうとは、あまりにも勝手ではないか。

 思わず、ムッとする。

 だが、緑川が寝ているのなら、取り上げられた携帯を探すチャンスかもしれない。

 緑川のジャケットのポケットへと、恐る恐る手を伸ばしてみる。

 すると、

「寝てないから」

 眠っているはずの緑川が目蓋を閉じたまま、ゆらぎの行動を制止した。

「そうですか……。起きてるなら反応くらいしてくださいよ。後、お釣り返します」

「あげる」

「え? 結構な額ですけど」

「んー、うるさいな……。着くまで黙っててよ」

 緑川は不機嫌に言い放ち、会話を拒絶する。

 黙れと言われ、ゆらぎはマンションに到着するまでの間、車内で一言も発することは無かった。


 緑川の自宅は都内の一等地に建つ、高級マンションだった。

 部屋に通されたゆらぎは辺りを見渡す。

 白い革張りのソファと、物一つ置かれていない綺麗なガラステーブルが室内の中央に設置されている。

 壁際の大き過ぎるテレビは、おそらく最新型の物だろう。

 率直な感想として、緑川はかなりの額を稼いでいるに違いない。

 でなければ、このような場所で贅沢な生活を送れるはずがない。

「さっき寝たから酔いが覚めたな」

 ソファに腰を下ろした緑川は、ペットボトルの水を半分程一気に飲み干して息を吐く。

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