わたし、BL声優になりました
「緑川さん、明日も収録がありますよね? 早めに切り上げないと」
「じゃあ、今から俺の家に来いよ。勝負は持ち越しだから」
持ち越しも何も、緑川さん、ずっと負けっぱなしですけどね。
緑川はカウンター席から立ち上がると、足下をふらつかせる。
「危ないですって。今、タクシー呼びますから」
ゆらぎは咄嗟《とっさ》に、緑川のよろけた身体を受け止める。
アルコールで上昇したであろう彼の体温が、服越しに伝わった。
「……お前、なんか女みたいな身体だな」
「えっ……? 何言ってるんですか。オレ、男ですよ」
緑川に手首を掴まれ、悪い意味でドキッとした。
見た目は男性を装えていても、ゆらぎの身体は女性そのものだ。
こんな場所で、しかも、緑川に性別を疑われてしまったら逃げ場が無い。
変に取り繕わず、冷静に対処しなければいけない。
思えば、幸か不幸か。
黒瀬には性別を一度も疑われたことは無かった。
だから、すっかり油断していたのだ。
自分が本当は女性で、男装をしている立場だということを忘れてしまうくらいに。
「……取り敢えず、今日は俺の家に泊まれ。話はまだ終わってない」
「いや、だから。オレも明日は収録入ってますし……」
「異論は認めない」
流石に緑川の自宅へ泊まるのは、かなりの危険行為だと自分でも理解出来る。
しかし、緑川は意見を一歩も譲る気はないようだ。
逡巡した結果。
携帯を取り上げられているゆらぎは、彼の言うことに従う以外、為す術《すべ》は無かった。