わたし、BL声優になりました

「白石」

「わっ!」

 本日の収録が終わり、事務室で予定を確認していたゆらぎに、声を掛けたのは渦中の人物である黒瀬本人だった。

「おい。そんなに驚くなよ」

 ゆらぎの過剰な反応に、黒瀬は不審な表情を浮かべていた。
 
「すみません……。何か、用ですか?」

 平然とした態度を装うが、ゆらぎの挙動不審な態度に、益々胡乱な眼差しを向ける黒瀬。

 ウグイス先輩と関わるようになってから、誤魔化しが下手になった。
 
 こんな態度では何かを隠していると、自己申告しているようなものだ。

「まあ、いいけど……。それより白石、三日後って予定あるのか」

「三日後、ですか? ありま──すん」

 ありません──と言いかけ、慌てて口を噤む。そして、ゆらぎはあることに気がついた。

 『白石』としての予定はない。
 だが、『シライ』としての予定なら──ある。

 つまり、黒瀬先輩は誘導尋問をしているのか。これはどちらとして、答えるのが正解なのだろうか。

「は? どっちだよ」

「えっと……だから……あるようでない……んです」

 視線をさ迷わせ、しどろもどろに答える。

「はっきりしない奴だな」

 言える訳がない。

 例え、黒瀬先輩が『シライさん』の正体に気づいていて、敢えて、知らない振りをしているのだとしても。

 苛立ちを露にした黒瀬は、変わらぬゆらぎの態度に諦念したのか、頭を振り、その場を立ち去ろうとする。

「……先輩こそ、何か用事があるんですか? その、三日後」

 ゆらぎは、その背中に思わず問い掛けていた。

「ある」

 黒瀬はゆらぎに背を向けたまま、きっぱりとそう答え、事務室から姿を消した。

 黒瀬先輩が『ある』と答えたその予定はきっと、私と同じなのだろう。

 ──私もいよいよ覚悟を決める時が来たようだ。

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