羊かぶり☆ベイベー
今までにユウくんや、私自身のことに関する悩みを打ち明けられたのは、吾妻さんだけだった。
深く関わりを持つこともない人だと思ったから。
私の人生の内で、少しずつしか関わる機会なんてないと思っていた。
彼が私のことを何も知らない、いつまでも初対面に近い存在だと思い込んでいたから。
私は昔から自分を知らなかったはずの人が、少しずつ自分を知っていく感覚が苦手だった。
なぜなら、身動きがとれなくなるから。
そんな私が珍しく気楽に、面倒臭くて、こんがらがった悩みでも、平気で話せたし、知ってもらいたいと思えた人。
私の30年弱の人生の中で、踏み込まれても良い、そう思えた、そのもう1人は吾妻さんくらいだった。
吾妻さんの顔が浮かんだ。
第一印象があれ程、最悪だった筈の人が。
今では、感謝の気持ちが沸き上がってくる。
染々と考えていると、ふと何かが引っ掛かった。
何かを忘れている気が。
今日、これまでの自分の行動を振り返ってみる。
事務仕事中に、来客があって。
お茶汲みをして、汐里とお昼ご飯の約束をして、また事務仕事に戻って──。
──あれ、そういえば私、吾妻さんにキャンセルの連絡入れてない……!
しまった。
完全に抜けていた。
汐里と会ったことに浮かれ過ぎだ、私。
この昼食後、仕事に戻る前に電話しよう。
「みさお」
汐里に呼び掛けられ、我に返る。
「あ、ごめん……」
「みさお」
「ん」
何度も名前を呼ばれ、不思議に思う。
勝手に1人の世界に入り込み、いろんなことを考え過ぎて、放ったらかしてしまったことは、素直に謝らなければならないけれど。
それよりも私を真っ直ぐ、じっと捕らえて放さない汐里の視線に、冷や汗が滴る。
「な、何……」
「みさおのお馬鹿」