羊かぶり☆ベイベー
素直になれそうなときもあったけど、結局、あの一度きり。
彼を好きになろうとしているのに、私の気持ちが思うように進んでくれない。
ここまで来ても、私は未だに足踏みしている。
カウンセリングのとき、吾妻さんは私のことを「意志が強い」だとか「優しい」などと言って、褒めてくれるけれど。
しかし、吾妻さんにとっては、業務の一環なのだと思うと、自惚れてはいけないと、気持ちを押し込める。
実際のところ、本当に私は逃げてばかりで、何も変わりが無かった。
「なかなか、難しいものだね」
上手く笑えない。
それを隠す為に、一度、水を口に含む。
そして、グラスをテーブルに置くと、突然、私の手に汐里の手が添えられた。
「え?」
「弱くない」
添えられた手が温かい。
「みさおは弱くなんてない。逃げてもない。逃げてるって言うなら、とっくに別れてる筈でしょ」
「……」
「向き合う為に、こんなにも健闘してるのに」
「ちょっと汐里……あんまり、そういうこと言ってもらうと、泣けてきちゃうから……」
「泣いたらいいじゃん! いろんなこと、我慢強く耐えてるの、私は知ってるからね」
汐里の言葉に、嬉しくて、恥ずかしくなって、私は茶化したつもりだったが、彼女は至って真剣らしかった。
彼女の手から、表情から、そして言葉から伝わってくる温もり。
その気持ちが私の胸に刺さり、喉の奥から何かが込み上げる感覚がする。
この込み上げるものが、完全に出てきてしまえば、きっとみっともなく泣き出してしまいそうだ。