自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
慌てたセシリアは、レースのハンカチを取り出して額の止血をする。


「ご、ごめんなさい。わたくしのせいで、クロードさんがーー」


セシリアを抱えていなければ、彼が負傷することはなかったであろう。

申し訳なさと心配でオロオロと謝る彼女の言葉を、「セシリア様のせいではございません」とクロードは遮り、誠実な声できっぱりと言う。


「全ては私が騎士として未熟であったことが原因です。怖い思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。この傷は、至らぬ自分への罰のようなもの。二度と、危険な目には遭わせぬと、お誓いいたしますーー」



三階の自室の前に着いたセシリアは、木目の美しいドアに向かい、誰にも届かない小さな声で、彼の名を呟いた。


「クロードさん……」


十二歳のあの時に、セシリアは彼に恋をした。

額の傷は今でも消えず、彼の前髪が揺れるたびにチラリと三日月形をあらわにする。

それを見るたびに彼女は、命懸けで守ってくれたことに対する感謝が込み上げ、それと同時に恋慕の感情を募らせるのだ。

今ではずっしりと重たいほどに恋心が膨らんでしまい、消し去ることなど不可能である。


(それでも私は、他の男性のもとに嫁がなければならないのね……)


沈んだ気持ちでドアを開けたセシリアであったが、部屋に入るなり言い争う声が聞こえてきて、目を瞬かせることになった。
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