自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
靴屋の主人に申し訳ないと思いつつも、悪役令嬢を一生懸命に演じてきたセシリアは、今はひとり、自室にいる。

チラリと柱時計を見れば、時刻はそろそろ十五時になろうとしていた。

コルドニエの主人が、作り直しを命じたパンプスを持って、間もなくやってくることだろう。

それまで練習に励もうと、生真面目なセシリアは鏡台に向かって座り、意地悪な顔を作って高慢な台詞を口にする。


「ひどいパンプスね。こんなのいらないわ。わたくしの望む靴を作れなくなったなんて、腕が落ちたのかしら? 老舗の名が泣くわよ」


(顔を斜めに向けた方が嫌な感じが出るかしら? 単調にならないように、厳しい言葉の前は声を柔らかくした方がいいと、カメリーに言われたわね……)


「もうコルドニエに注文しないわ。不愉快よ。二度とわたくしの前に顔を見せないでちょうだい!」


(コルドニエには、子供の頃からお世話になっているのに、こんなことを言ってしまえば二度と靴を作ってもらえないわね。悲しいわ……でもやらないと)


少々感傷的になりつつも、セシリアが真剣に練習していたら、ドアがノックされてツルリーが元気に入ってきた。


< 88 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop