自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
「十九歳になる私の息子、タロンと申します。コルドニエで靴職人をしております。本日は勝手に連れてきましたこと、どうかお許しください」


タロンはスラリと細身の体型をして、父親と同じ職人風の衣服の上にジャケットを羽織っている。

丸い鼻は父親譲りだろう。

若者らしい溌剌とした笑顔と、イキイキと輝く瞳をした好青年に見えた。


ふたりを交互に見たセシリアは、戸惑いがちに声をかける。

「わ、わかりました。同席を認めましょう。お座りになって」と言った声が少々上擦ってしまったのは、息子が同席することを想定した練習をしてこなかったことと、もうひとつ。

靴屋の主人が、なぜか嬉しそうにニコニコとしているからであった。


(先週、お会いした時には、疲れた顔をしていたのに、どうして……?)


これまで、何度靴を作り直してもセシリアに撥ね付けられ、厳しい言葉をかけられてきたコルドニエの主人は、ほとほと困り果てた様子であった。

前回の来城では、『なにを作ってよいのやら。靴屋としてやっていく自信がなくなりそうです』とこぼして、確かなダメージを受けていた。


それなのに、なぜ今日は上機嫌なのか。

息子にいいところを見せたくて張り切っているのだとしても、そこまで嬉しそうな顔はしないだろう、と思うほどの笑顔である。


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