自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
セシリアの戸惑いを察したのは、左右に立つ侍女ふたりである。

セシリアに代わってカメリーが「それでは靴を見せてください」と事務的な口調で催促し、ツルリーが「今度こそ満足のいく品物なのでしょうね」と嫌味な言い方をした。

侍女に助けられてハッとしたセシリアは、悪役令嬢らしい意地悪な表情を取り戻し、偉そうに足を組み変える。

「わたくし、忙しいのよ。早くして」と冷たい声をかけたが、親子して笑顔を崩さない。

「かしこまりました」と父親がテーブル上に置いた紙箱の蓋を、息子が開ければ、艶々に磨かれた青いパンプスが現れた。


前回の面会でセシリアが、『サロンパーティーに着ていくドレスを水色に変えたの。このピンクの靴は合わないから、寒色系のものにしてちょうだい』と理不尽な作り直しを命じたゆえの、青いパンプスである。

甲の部分にスパンコールが縫い付けられ、キラキラと上品に輝き、滑らかな曲線が美しい。

夏空のような清々しさもあり、セシリアは一目で気に入った。

けれども、その気持ちを隠してフンと鼻を鳴らし、練習した台詞を言い放つ。


「ひどいパンプスね。履いてみようという気になれないわ。わたくしの望む靴を作れなくなったなんて、腕が落ちたのかしら? 老舗の名が泣くわよ」


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