自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
目線や顔の角度、言葉の強弱や抑揚など、それは完璧に近い悪役令嬢っぷりであった。

しかしながら、靴屋の親子は期待外れの反応をする。

笑顔の父親は「仰る通りでございます!」と興奮気味に答えて息子の肩をポンと叩いた。

息子のタロンも、少しも落ち込むことなく、「ご指摘ありがとうございます!」と張り切った受け答えをする。

セシリアも侍女たちも、これには困惑を表さずにはいられない。


(私、随分とひどい言葉をかけたはずよね。コルドニエの親子は、どうして喜んでいるの……?)


その理由を、靴屋の主人が話しだす。

「ひとり息子のタロンを後継にするべく、幼少の頃から靴作りを仕込んできたのですがーー」


王家御用達の老舗、コルドニエは、職人を四十人ほど抱える大きな靴屋で、経営は彼らの一族が代々世襲で引き継いできたらしい。

次期店主となるべく靴作りの英才教育を施されてきたタロンは、わずか十歳の時には商品として売り出せるほどの靴を作れるようになった。

タロン自身も真面目に一生懸命に腕を磨いたおかげで、今では古参の職人たちをも唸らせる優秀な職人になったのだという。


これでいつでも、家督を息子に譲ることができる。

靴屋の主人はそう思って、安心していたそうなのだが……。
< 92 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop