初めまして、大好きな人



施設長の話を黙って聞く。


私の病気のこととか、この施設のこととか、
色々教えてもらった。


ノートの話と照らし合わせて確認すると、
ようやく全てを理解した。


つまり私は、病気を抱えているけれど
普通に生活出来るわけで、
今日は出かけなくちゃいけない日だってこと。


この榎本尚央っていう人の存在が気になる。


どんな人なんだろう。


分からないのに、そんな人と出かけようとしている自分に驚く。


分からないけれど、悪い人じゃないことは
なんとなく予想がつく。


特に昨日の日記に書いてある通り、
傘もささずに走って会いに来てくれる人なんて、
そうそういないと思う。


そういう人を大事にしなくちゃいけないことくらい、
私には分かっている。



朝ごはんを食卓に並べる頃には、
子どもたちが起きてきて、
みんなで賑やかに食事をした。


左目に眼帯をした男の子、
葉山雄介が私になついてきていて、
私の服の袖を引っ張ると
にっこりと笑って私に挨拶をしてきた。


他の子は私をなんだか警戒しているみたいで、
寄っては来なかった。


きっと私の病気のせいだろうなと思う。


私もまだまだ子どもだけれど、
子どもは好きな方だ。


きっと病気がなかったらこの施設の子どもたちと
上手くやれていたんだろうなと思った。


子どもと遊んだりコミュニケーションを取るのは得意だしね。






部屋に戻ってノートを見る。


昨日の日記には今日の服装のことについて書いてあった。


クローゼットに用意した服を着ていくこと。


私はクローゼットを開けてみた。


そこには派手過ぎず、地味過ぎずの服がかけてあった。


なるほど。遊園地だもんね。
このくらいが無難だろう。


だけど私はよっぽど楽しみなんだろうな。
ただ遊びに行くんだとしてはちょっと気合が入り過ぎている気もする。


まるでデートに行くみたい。





「デート……なんてね」




ポツリと呟いて鼻で笑う。ないない。まさかね。



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