初めまして、大好きな人



八時半になって、私はノートを持って部屋を出た。


玄関でスニーカーを履いていると、
施設長が後ろからやってきた。


「そう言えば今日は九時の約束だったね。
 今日の波留ちゃんは一段と可愛い。
 楽しんでおいでね」


「うん。ありがとう」


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」


施設長にそう言って施設を出た。


今日は昨日の雨が嘘みたいに晴れ上がっていて、
地面も乾いていた。


特別寒くもなく暖かくもない
ちょうどいい天気だった。


ノートの通りに進んでいくと、
すぐに喫茶店「ヴァポーレ」に着いた。


看板を見てみると、この喫茶店は
朝の五時から開いているらしい。


夜は零時までやっているらしいから、
随分長いこと開いているんだなと感心する。


カランコロンと音を立てて中に入ると、
中にはちらほらとサラリーマン風の男の人が
カウンター席に座っていた。


「いらっしゃいませー」と奥からポニーテールの女の店員さんが出てくる。


それを見て「当たり」だと思った。


昨日の店員さんは男の人で不愛想だったから、
嫌な思いをしたと思うけれど、
今日は女の店員さんで愛想もいい。


ふぅっと胸をなでおろして、
私は窓際の一番奥の席に座る。


水を運んできた店員さんを見て、びっくりした。


女の店員さんじゃなかった。


そこにいたのは男の店員さんで、
不愛想で突っ立っている。


コン!と音を立てて水の入ったグラスを置くと、
「ご注文は」とぶっきらぼうに聞いてくる。


出た。こいつが昨日の店員さんか。


警戒して後ろに仰け反ると、
男の店員さんが急に「痛ぇ!」と声を上げた。




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