初めまして、大好きな人



何が起こったか分からずに
店員さんを見上げていると、後ろから高い声がした。


「こら!雅文。貴重な常連さんに
 その態度はないでしょ!
 お冷も商品の一つ。
 置くときは音を立てずに丁寧に置く!
 それに聞くときはご注文はいかがなさいますか?でしょ!
 しっかりやんなさいよ!」


男の店員さんの後ろから女の店員さんが出てきた。


お盆で男の店員さんを叩いている。


雅文と呼ばれた男の店員さんは
はぁっとでかいため息をついた。


「痛ぇな!すぐに殴んな。
 ちゃんとやってるだろ!」


「出来てないから言ってるの!
 そんなんじゃ一杯のお水もまずくなる!
 あっ、ごめんなさいね。こいつ入ったばかりで」


女の店員さんは私に笑顔を向けて謝った。


面白い人。


表情がコロコロと変わっていく。


雅文は面倒くさそうに頭をかくと、
私に向けて半端に頭を下げる。


「すいませんっした」


「申し訳ございませんでしょ!
 まったく。だからあんたモテないのよ」


「あ、あの、私は大丈夫ですよ。
 確かにその……怖いなとは思ったけど」


私がおずおずとそう言うと、雅文に睨まれた。


まずいことを言ったかと思って目をそらす。


すると女の店員さんはにこやかに笑って言った。


「徹底させます。お客様……
 特にあなたみたいな常連さんには丁寧にってね。
 あっ、こいつ私の弟で、雅文って言います」


女の店員さんはそう言った。
弟さんだったのか。
だからこんなに近しい距離感なんだ。


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