初めまして、大好きな人



「弟さん……」


「あなたは見たところ高校生ですよね?」


「あっ、私高校には行ってなくて。
 十七歳です」


「そうなんですね!こいつ十九歳なので二つしか違わないですね。
 なのに雰囲気は大人びていて素敵です。
 こいつに見習わせたいくらいです!」


「いえいえ。そんなことないですよ。
 あの、失礼ですけど、お姉さんのお名前を聞いてもいいですか?」


十九歳なんだ。もっと上かと思った。
雅文を横目に気にしながら、お姉さんの名前を聞く。


私が知りたいのはこんなやつの名前じゃなくて
お姉さんの方なんだよ。


「私?私は真理愛です。今年二十三歳です」


「歳まで聞いてねぇだろ」


「うるさい」


真理愛さん。二十三歳か。
尚央と一緒だ。


真理愛さんは笑顔が素敵な人だ。
この人も大人なんだなと思う。


真理愛さんは悪態をつく雅文を軽く小突いて、
私に向けて舌をかわいく出して見せた。


「あなたは波留ちゃん、よね?」


「えっ、どうして私の名前」


「いつも来る男の人が波留、波留って言うのが聞こえてきて。
 そうなのかなぁって」


尚央のことだ。
きっと尚央は私をこの喫茶店で見つけて、
名前を呼んでいてくれたんだろうな。


そう思うと嬉しい反面、なんだか恥ずかしかった。


照れくさくて顔を伏せると、
はっと鼻で笑う声が聞こえた。


「春っぽくねぇ顔してんのにな。
 季節感がねぇよ」


「こら、雅文!」


「べ、別に季節の春じゃないから。
 波を留めるって書いて波留。
 穏やかな波のようにおおらかでありますようにって
 つけられた名前だもん」


あまりにも失礼なことを言う雅文に腹が立って、
ついつい名前の由来まで喋ってしまった。


私がムキになって言ったものだから、
雅文は驚いた顔をしていた。


口をぽかんと開けて押し黙る。


真理愛さんは顔を輝かせて口を開いた。


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