初めまして、大好きな人



何?なんの話?
だって尚央は今まで付き合ったことがなくて、
好きな人も私一人だったって言っていたのに、
この人は誰?
尚央の何だって?
初めて付き合った彼女?


「消えろ。顔も見たくない」


低い声で、尚央が言った。


亜里沙はそんな尚央を見て今まで張り付けていた笑顔を剥がして、
冷たい目をして言った。


「ふん。あんたなんてねぇ、
 所詮は金持ちだからモテるのよ。
 そうじゃなきゃ誰があんたみたいな男、
 愛してやるって言うのよ」


亜里沙は冷たい目で尚央を見続けた。


「何?この子が今の彼女?
 未成年との交際なんてあんたも落ちぶれてるわね。
 この子の親が納得しないでしょう」


「おい」


亜里沙が私の方に向き直って、私の肩に手を置いた。


チクリとした痛みが生じた。


「ねえあなた。お父さんとお母さんには言ってあるの?
 ダメよ。成人男性との交際には親の許可がなくっちゃ」


「おい!いい加減にしろ!」


尚央が私の肩に手を置いていた亜里沙の手を引きはがした。


亜里沙は掴まれた手をさすって尚央を睨みつける。


尚央の顔は見えなかったけれど、肩で息をしていた。


「頼むから、帰ってくれ。波留、行くぞ」


尚央は私を助手席に押し込んだ。


訳が分からないままぼうっと車の中に乗り込む。


亜里沙と尚央はそれから少し話をしていたみたいだったけれど、
何を話しているかは分からなかった。


何かを言い争った後、
亜里沙の隣にいた男が尚央のことを殴りつけた。


尚央はよろめいて顔を押さえたけれど、
やり返すことはしなかった。


二人は駐車場の奥に消えて、
尚央が車まで戻ってくる。


運転席に乗り込むと、尚央はエンジンをつけた。


「帰るか」


「…………」


返事をしない私。


尚央はふっと息をついて車を走らせた。


洋楽が綺麗に流れてくる。


でも私にはその綺麗な洋楽が全く心に響かなかった。


愛を語ったその曲が気持ち悪いものに思えてくる。


耳を塞ぎたかったけれど、
私はずっと窓の外を睨みつけていた。


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