初めまして、大好きな人
行きよりも帰りの車は長く、長く感じた。
甘いメロディーの洋楽で眠そうになったけれど、
私は頑張って起きていた。
「寝てもいいけど」っていう尚央の声が響く。
寝るもんかと自分に言い聞かせて、
なんとか駐車場に着くまで眠らずにいることが出来た。
駐車場に着いて、尚央がエンジンを止めてシートベルトを外す。
急に寒さが込み上げてきた。
「波留。さっきのことだけど……」
「…………」
「あれな、実は俺―」
「いい。聞きたくない」
「波留」
「もうここでいい。送ってくれてありがと」
お土産を持って車を降りる。
一人で喫茶店の方へ歩いていくと、尚央に手を掴まれた。
その拍子にしゃがみ込む。
尚央も同じようにしゃがみ込んだ。
「待て、波留。聞いてくれ。俺は―」
「嘘つき」
私の声とは思えないほどの、
びっくりするほど低く冷たい声が出た。
「付き合った人はいないって、
好きになったのは一人だけだって言ったじゃない。
全部嘘だったの?」
「違うんだ。波留、聞いてくれ」
「馬鹿みたい。私は全部初めてだったって言うのに。
いくら私が全部忘れるからって嘘つかなくてもいいじゃない!」
「波留」
「何が病気を理解してる、よ。
結局私のこと馬鹿にしてたんでしょ。
騙してやろうって、からかってやろうって、そう思ったんでしょう。
馬鹿にしないでよ!」