初めまして、大好きな人



「雅文……」


二人の視線が合う。


そのままじっと見つめ合っていると、
横から真理愛さんの声が聞こえてきた。


「ねえ、あなたたち見つめ合ってるとこ悪いんだけど」


「なっ、見つめ合ってなんか……」


「そ、そうですよ!」


「うふふ。波留ちゃん、お迎えが来たわよ」


「えっ?」


扉の方を見てみると、
息を切らした施設長が立っていた。


「波留ちゃん」


「施設長」


施設長は私に近づいてきて、私の頬を軽く打った。


びっくりして思考が止まる。
雅文も真理愛さんも、驚いた様子で施設長を見ていた。


「あ、あの。お客様。波留ちゃんはちょっと事情が……」


「馬鹿。心配したんだよ。連絡も寄こさないで
 こんな時間まで一人でいるなんて。
 おじさん心配で、心配で……」


そこまで言うと、施設長は悲しげにそっと笑った。


朝と同じ施設長の優しい顔だった。


「何があった?榎本さんは?ん?」


「い、言いたくないの」


あんなに張り切って家を出ていったのにこんなことになって、
恥ずかしくて言えなかったのもあるし、


付き合うことになったことは
施設長には言えない気がした。


だから黙っていることにしたの。


施設長は笑って私の頬を撫でた。


「あの。こいつには事情、聞いたんで。
 そんなに心配しなくても大丈夫です。
 多分寝たらすっきりしますよ」




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