初めまして、大好きな人



家の中は何もなくて、
広々とした空間だけがそこにある。


電気をつけると更に明るくなって、
さっきよりも心なしか広く見えた。


どうして尚央がここに?
どうして尚央が入れるの?


頭の中を疑問がぐるぐると駆け巡る。


ぼうっと辺りを見回していると、
尚央が私の手を強く握った。


「ここ、俺が買ったんだ。波留。ここはお前の家だ。
 だけど、前のような家じゃない。
 お父さんもお母さんもいない。
 けどな、ここには俺がいる。
 辛いとき、悲しいとき、寂しいとき、そして楽しいときも。
 いつでも俺がお前のそばにいる。

 ここは俺とお前の家だよ。
 これからはいつでもこの家に帰ってこられる」


「尚央……」


「嫌か?」


私は小さく首を横に振った。


嫌なはずないじゃない。
むしろ嬉しいと思った。


帰ってこられるとか、俺がいるとか、
そう言われたことが嬉しかった。


お父さんとお母さんが死んで、
もう入れなくなってしまったはずだったこの家が、
私と尚央だけの家ってこと?


「普段は施設で頑張るんだ。
 精一杯生きて、目いっぱい大人になれ。
 でもどうしようもなくなったらここに来ればいい。
 俺がいるから一人じゃないぞ」


「尚央、どうして私なんかのために
 ここまでしてくれるの?」


「なんかとか言うな。俺がそうしたいからするんだよ。
 波留が好きだから」




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