初めまして、大好きな人
尚央の言葉を反芻させる。
今、なんて言ったの?
好き?私を、好き?
ボッと顔が火照りだす。
そんな言葉、十七年間生きてきて
言われたことなんかないよ。
男の人に初めて、好きだなんて言われてしまった。
それはどういう意味で?
「そ、それは、ど、どういう……」
「はは。赤くなってんなー。
もしかして初めて言われたとか?」
「そ、そんなんじゃないし!」
「強がんなよ。いいじゃん、初めて。
波留の初めて、俺がもらったな」
尚央はまた恥ずかしいことをサラッと言うんだから。
つまりはどういうこと?
尚央は私を、本当に好きなの?
頭が追いついていかない。
「波留。これ、渡しておくな」
ぐるぐる考えていると、尚央は私の手に何かを握らせた。
手を開いてみると、そこには小さな鍵があった。
何の鍵かは察しが付く。
これはここの家の新しい鍵かな。
「合鍵。好きな時にここに来られるぞ。
俺がいなくても、中に入れるからな」
「ありがとう。でも……」
「でも?」
「ううん。なんでもない」
でも、でもね、尚央。
あなたのいない部屋に、あなたのいない場所に、
あなたがいないまま一人でいるのは嫌だから、
私はきっとこの鍵を使うことはないと思う。
この家に来るときはきっと、
いつも一緒な気がするの。
なんて、恥ずかしくて言えなかったけど。