初めまして、大好きな人
私と尚央は、それから床に座ってカタログを眺めた。
ここにソファを置きたいとか、
テレビはここがいいとか、
家具をいろいろと見るのがこんなに楽しいなんて。
尚央が言った「好き」を結局追及することは出来なくて
少しモヤモヤしていたけれど、楽しくてそれすらも忘れられた。
なんだかこの空間が居心地よすぎて、
リラックスしてしまってついウトウトしかけると、
尚央が優しく「寝るなよ」って言って私の頭を撫でた。
「ホラ、眠るのがトリガーになっているだろ?
だったら寝たら忘れちゃうかもしれないしさ。
それはなんか勿体ない気がしねぇ?」
それもそうだ。
深く考えなかったけれど、
確かにそれは一理ある。
眠ることで記憶がリセットされるなら、
今寝てしまうとこの日をやり直すことになってしまうかもしれない。
起きた時に尚央がいて、この人誰だろうってなってしまうのは少し、
いやかなり寂しい。
私は気を引き締めて両手で頬を叩いた。
「眠い?もう遅いから帰ろうか」
「うん」
立ち上がって伸びをすると、
尚央は私を立たせて手を引いた。
二人で家を出て、鍵をかける。
外はすっかり暗くなっていて、
寒さが急に私たちを襲った。
並んで歩くと、尚央は私の手を強く握ってくれた。
私も握り返して二人でまたしりとりをした。
さっきと同じように尚央は強かった。
しりとりでこんなにムキになって
全力で楽しめるなんて思っていなかった。
たったこれだけのことなのに、
尚央とすると楽しいものになる。
やっぱり尚央は大人だなぁってつくづく思った。