初めまして、大好きな人
施設に戻ると施設長が庭にいた。
眼鏡をかけ直して、尚央に会釈をする。
そしてにっこりと笑った。
「おかえり、波留ちゃん」
「ただいま」
「榎本さん、今日も波留ちゃんのことを
ありがとうございます」
「いえ。遅くまですみません」
隣で尚央の声が響く。
もっと一緒にいたいな。
そう思ったけれどそれを口に出すことは出来なくて、
玄関から顔を覗かせている雄介を見たら
そんな気持ちは消えていた。
尚央が私の手を離して手を振る。私も手を振り返した。
「また明日な。波留」
「また、明日?」
「おう。また明日」
「また明日……」
私がそう言うと、尚央は満足そうに笑って
くるりと背中を向けた。
手を上げてひらひらと振ると、軽く駆け出した。
その背を見つめて、強く思う。
また明日も会いたい。
また明日も、このドキドキと嬉しさを味わいたい。
それは可能なんだろうか。
また明日も、私は尚央に会えるのだろうか。
また、手を繋いでくれるのだろうか。
また、「好き」って言ってくれるのだろうか。
「中に入ろう。夕ご飯だ」
「うん」
施設長に促されて家の中に入る。
雄介が私のそばに来て服の裾をツンツンと引っ張る。
私は「ただいま」と雄介に言った。
すると雄介は満面の笑みを浮かべて「おかえり!」と言った。
私の手を握って、食堂まで手を引っ張られる。
尚央と手を繋いだ時とは感覚が違っていて、
なんだか妙に尚央の手が恋しくなった。
それでも、子どもたちと施設長とこの施設にいると、
そんな気持ちはどこかに姿を消して、
夕食を終えて一人になるとまた現れる。
私はノートを開いて、
今日のことを細かくメモしていった。