初めまして、大好きな人
思わず呟いていた。
だってこんなことあるわけないじゃない。
私が、病気?
しかも、前向性健忘?
なんなのそれ。
そんな病気聞いたこともない。
記憶が消える?
たったの一日だけで?
この日記を書いた時の私はふざけていたのかな。
よくもまあ、こんな冗談考えたこと。
それに、お父さんとお母さんがいないだなんて。
でも確かに不自然。
見知らぬ部屋に一人でいるし、
朝は起こしに来るはずのお母さんの姿もない。
それに……。
「波留ちゃん。おはよう」
「あ、あなたは、施設、長?」
「そうだよ。波留ちゃん」
お母さんの代わりに、見知らぬおじさんが部屋に来ていた。
眼鏡をかけたおじさんはなんとも言えない表情で微笑んでいた。
このノートに出てくる施設長って人なのが分かった途端、
なんだか怖くなった。
認めたくない。
これが全部本当のことだなんて。
お父さんとお母さんには会えなくて、
おまけに病気を抱えているなんて。
気づいたら私は叫んでいた。
自分の声とは思えないほどの甲高い悲鳴を上げて、
涙をボロボロ流して暴れまくった。
施設長が私を受け止めて、静かに宥めたけれど、
全く効き目がなかった。
ノートを床に叩きつけて、
本棚に収まっていた学校の教科書や
本たちをなぎ倒して、ベッドに頭を叩きつけた。
こんな現実、信じたくない。
これがもし本当のことなら、
私はこんな世界なんかいらない。
全部壊れてしまえばいい。
そう思った。