初めまして、大好きな人



その時ふと、枕元に目がいった。


小さな鍵が置いてある。
なんだ、こんな鍵。


全部いらない。
何もかもなくなってしまえ!





「わぁあ!……あ、あ……」





床に叩きつけようと鍵を握りしめた時、
ピタリと私の体は止まった。


振り上げた拳は宙に浮き、
その手は震えていた。


これは、何?
私は、この鍵を知っているの?
これは、捨ててはいけないもの?


体が、そう言っていた。


「波留ちゃん。ノートを全部読むんだ」


施設長がノートを拾い上げて、私に差し出した。


体の力が抜けていく。


涙も止まり、次第に頭の中がすぅっと透明になっていくのを感じた。


手の中の鍵を見た途端、
これは現実なんだと、不思議と理解することが出来た。


冷静になって考えてみると、
私はまだ一日目の日記しか読んでいない。


これが本当のことなら、私はこのノートを
見るべきなんじゃないだろうか。




ノートを捲って、その文字を追う。


十二月二日、三日、四日、そして五日。
六日が過ぎて、昨日までの記憶を辿る。


私は鍵を見つめた。
そうか、だからこれは大事なものだったのか。


だから私は、これを捨てられなかったのか。


読んでいくうちに心の中のもやが晴れていくようだった。




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