恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

(な、なに……?)

梓が振り返ろうとしたときだった。
背中に衝撃を感じると同時に、身体が大きく傾く。

不意打ちだったため、足の踏ん張りが効かない。梓は、その場に両手と両膝を突くようにして倒れ込んだ。


「悪い! 大丈夫か!?」
「は、はい」


ぶつかった相手に声をかけられ、なんとかそう答えたのも束の間。今度は強く腕を引き上げられ、立たされた。


「ありが――」
「社長、お待ちください!」


梓が口にしたお礼が、近づいてくる叫び声にかき消される。

(社長?)

弾かれたように顔を上げてみれば、そこには梓が捜索していた社長、久城一樹の姿があった。梓にぶつかってきたのが、一樹だったのだ。


「まずいな。行くぞ」

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